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平成27年度あいち小児在宅医療実技講習会開催報告

  • 2016年10月11日 2:09 PM

平成27年度あいち小児在宅医療実技講習会開催報告

平成28年1月31日(日曜日)に愛知県小児科医会、名古屋大学 障害児(者)医療学寄附講座、大同病院の主催で「平成27年度あいち小児在宅医療実技講習会」が大同病院(だいどうクリニック講堂)において開催された。

1.参加者について

今回は医師のみ34名で グラフ1に示すように研修医から卒後30年以上のベテランまで幅広い年齢層の参加があった。参加者の診療科は小児科医が20名で残りの14名は内科医、総合診療科、外科系医師 研修医等だった。(グラフ2)

所属をみると病院からは小児科医以外の若手医師の参加がみられ 訪問診療を専門としていない一般小児科クリニックの医師の参加もみられるなど 徐々に小児在宅医療に関ろうとする医師の裾野が広がっていると思われる。

グラフ1 参加者の卒後年次

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グラフ2 参加者の所属
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2.プログラム

基調講演「愛知県の小児在宅医療の現状と課題」

講師 水野美穂子(大同病院)

平成26年度に愛知県が重症心身障害児者に行ったアンケート調査の結果から

18歳未満の患者の90%が在宅でケアをされていること、5.4%が人工呼吸器管理をされていることなど医療依存度が非常に高く 家族の負担が大きい事などを総括し 大同病院の取り組みについても報告した。

講演2「NICUから在宅医に望むこと」

講師 早川昌弘先生(名古屋大学医学部付属病院総合周産期母子医療センター)

愛知県内の周産期母子医療センター18施設のアンケート調査より 現在6ヶ月以上入院している児が14名いること。これまで在宅療養へ移行した児についてNICU主治医と訪問診療医とが必ずしもうまく連携できず、保護者が戸惑うケースがみられることなどが報告された。開業医の先生への要望として

予防接種やシナジスの注射、気管カニューレや胃瘻チューブ交換などもっと在宅医療へ関ってほしい ということだった。行政に対しての要望はレスパイト施設や重症心身障害児施設の充実を挙げた。

講演2「胃瘻の実際、胃瘻の管理」

講師 田中修一先生(愛知県心身障害者コロニー中央病院 小児外科)

胃瘻の造りかたには開腹方法とPEGがあること、それぞれの長所と短所をあげ 良い胃瘻とはろう孔が長く(漏れが少ない)胃の適切な場所に作られていること、腹壁にしっかり固定されていることであった。十二指腸への逸脱やチューブの腹腔内挿入による栄養剤の漏れなどの合併症に触れ 安全に挿入するための注意点として 術後早期にはガイドワイヤーを用いて交換する事、患者に苦痛を与えないように迅速に交換する方法が説明された。

実習1 胃瘻交換

4グループに分かれ 実習用人形(まあちゃん人形)を用いて胃瘻交換の実技をおこなった。40分間でガイドワイヤーを用いた交換方法を実習したが 時間が短くて不十分であったという意見が聞かれた。
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講義3 ランチョンセミナー「育ちを支える食事」

講師 浅野一恵先生(社会福祉法人子羊学園つばさ静岡)

食事形態を変えること、ポジショニングを整えるころで食べにくさがなくなり 誤嚥性肺炎のリスクが減る事などを多くの実例を示して説明。ゼリー状の食形態は誤嚥を招きやすいなどVF(嚥下造影)の画像で示した。

食べやすい食事形態のサンプルなども当日準備して参加者に配布された。

参加者のアンケート調査では最も評価の高い講演だった。

講義4 「気管切開、人工呼吸器管理を要する児の内科的管理」

講師 山田桂太郎先生(愛知県心身障害者コロニー中央病院 小児神経科)

重症心神障害児は緊張が強く側彎症や胸郭の変形を伴うことにより 年齢と共に気管の走行も変わる。気管カニューレはその材質や角度により気管壁にあたって肉芽ができたり閉塞することがある。気管腕頭動脈瘻は最も危険な合併症であり リスクの高い患者の気管カニューレの選択や予防方法が示された。人工呼吸器はしっかり圧をかけて十分な換気ができるようにすること加湿が大切である事などの説明がされた。

実習2 気管切開と呼吸器に関する実習

4グループに分かれて実習用人形(まーちゃん人形)で気管カニューレの挿入手技を確認した。2企業の気管カニューレを準備して種類と用途を確認した。(企業展示を含めると3企業)

人工呼吸器の実習は5企業の協賛で主に在宅用人工呼吸器について見学し 肺痰補助装置の体験を行った。

講義5「呼吸リハビリテーション」

講師 石原美智子先生(愛知県コロニー中央病院 リハビリテーション科)

重症心身障害児は筋緊張が強く それに伴って姿勢の異常、胸郭の変形がみられる。胸郭の変形は換気不全を招き 肺痰困難や肺炎の原因になる。呼吸リハビリの役割はポジショニングにより緊張を緩和し 筋の可動域を増やす事、肺痰を促す事などを説明した。

講義6「小児在宅医療の実際と診療報酬」

講師 大谷勉先生(こどもの国 大谷小児科医院)

一般小児科の開業医の立場で 休診日を利用して行っている訪問診療の実際について報告。人工呼吸器患者も含めて9名の訪問診療を1ヶ月に2回の割合でおこなっている。夜間救急時は豊橋市民病院のバックアップ体制がある。

在宅医療を行うにあたり必要な知識として診療報酬についてと福祉制度についての説明がされた。

全体を通じて実習は大変熱気があり 参加者の感想も「とてもよかった77%」

「よかった23%」とほぼ全員が満足している結果であった。

一方 内容については若手医師やこれから在宅医療に取り組もうと考えている

医師にとっては「基本的な手技や知識が学べてよかった」と好評であったが す

でに在宅医療を行っている医師は「トラブル発生時の対応について学びたい」

といった一歩進んだ内容を求めていた。今後は対象者のレベルを分けて実習内

容を構成する必要があると思われる。

3.その他 アンケート調査の結果

グラフ3 小児在宅医療をすすめるために必要な事

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今回の参加者の中でアンケート調査に答えた26名中 小児在宅医療の経験者は10名(38.5%)であった。経験がないと答えた16名中15名は今後在宅の児を診る事が可能、と答えた。

その条件として「急変時の受け入れ先が確保されている事」と答えた人が最も多かった。ついで「訪問看護ステーションとの連携」「重症度が高くない場合」と続いた。

4.まとめ

今回は医師を対象とした実技講習会であったが 若手病院勤務医、ベテランの一般小児科開業医などが今後の在宅医療に携わる準備として熱心に実習していたのが印象的であり 大変盛り上がった。

今後は経験者向けのadvanced コース、beginnerコース 看護師向けコースなど参加者のニーズに合わせて実技講習会を継続していくことにより 小児の在宅医療のハードルが下がる事が期待される。また このような講習会を経験して在宅医療に従事する事が可能と考えている医師の情報がNICUを担当する医師に伝わるようなネットワークつくりも重要と考える。

平成27年度あいち小児在宅医療実技講習会 実行委員長 社会医療法人宏潤会大同病院 小児科 水野美穂子

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