- 2022年7月24日 1:29 PM
予防接種を行っている主な病気について
1.ジフテリア
ジフテリアは感染症法の二類感染症です。日本では、昭和25年頃には年間10万人の患者と1,000人程度の死亡が報告されていましたが、予防接種が始まってから患者数は著しく減っています。平成元年から平成6年までの年間報告は2~5名、平成7年から平成12年までの年間報告数は1~3名、平成13年以降は報告がありません。
ジフテリア菌の飛沫感染でおこる急性感染症で、症状のない保菌者が感染源となることもあります。咽頭に感染することが多いのですが、鼻、喉頭にも感染します。咽頭ジフテリアの症状は、高熱、のどの痛み、犬吠様の咳、嘔吐などで、咽頭を中心に偽膜を形成し、ひどい場合には窒息死することがあります。
1990年代初頭のロシアにおけるジフテリアの流行や、ここ数年の東アジアでの小流行など、海外の一部地域で今も散発的な流行が続いています。日本人旅行者や在外邦人が感染し、日本国内に持ち込む可能性は否定できません。
2.百日咳
百日咳は感染症法の五類感染症(定点把握)です。日本では、昭和25年に12万人の発生がありましたが、予防接種が始まって以後、昭和50年までに年間報告数は1,000例前後に減少しました。その後、昭和50年のDPTワクチン接種後の死亡例が報告されたことにより接種が一時中断され、昭和54年には患者の報告数は13,000例、死亡者数は41例に再び増加しました。しかし、昭和56年に現在使用されている無細胞性不活化コンポーネントワクチンが導入され、その接種率の向上にともなって患者報告数は減少しています。年間患者数は、平成12年から14年までの各年にそれぞれ2.8万人、1.5万人、1.2万人と推定されています。患者の90%ほどを9歳以下の小児が占めますが、それ以上の年齢層の割合は増加傾向となっています。
百日咳菌の飛沫感染でおこる急性呼吸器感染症で、風邪のような症状ではじまり、続いて咳がひどくなり、顔をまっ赤にして連続的に咳込むようになります。強い咳のあと急に息を吸い込み、特徴的な笛を吹くような音が出ます。通常発熱はありません。乳幼児(特に乳児)では咳で呼吸ができずにチアノーゼやけいれんをおこし、さらに肺炎や脳症などの重い合併症を併発することがあります。乳幼児期を過ぎると、激しい咳だけの症状となります。
また、百日咳を疑われたお子さんは、菌の検査や抗体検査などで診断を確実にすることが重要で、その予防接種対策については、かかりつけの小児科医にご相談下さい。
(注: 明らかに百日咳に罹患した人(百日咳の臨床診断は難しい場合が多く,検査室診断で確認されていない場合は,明らかに罹患したと考えない方が良いでしょう),あるいは百日咳に対する血清抗体の保有(母体からの移行抗体を除く)が証明された人は,DPT ワクチンではなく,DT トキソイド(沈降ジフテリア破傷風混合トキソイド)を用いてよいのですが,平成19年(2007)現在,この場合の接種はわが国の予防接種法では定期外となるため、百日咳罹患された患者さんでもDPTワクチンの使用は可となっています。詳しくは2008年度版「予防接種ガイドライン」の27頁のDPTの項を参照)
乳児が感染すると重篤となるために、現在の対策はこの年齢層の予防が中心となっています。しかし、10歳代や成人の報告例の増加を認めており、これらの年齢層が乳幼児の感染源にもなっていることから10歳代以上の人へのワクチンの追加接種も検討されています。
3.破傷風
破傷風は感染症法の五類感染症(全数把握)です。ワクチンが無い時代に、日本では年間800例ほどの発生がみられ、約600例の死亡が報告されていました。昭和43年にDPTワクチンに組み込まれてから患者発生は大きく減少し、平成12年以降は年間報告数69~106例、死亡例は9~12例となっています。ただし、平成12年以降の患者の95%以上が、予防接種を受けていない年代の35歳以上となっています。
破傷風菌は土の中に潜む嫌気性菌で、傷口から感染します。体の中で発育すると、菌の出す神経毒素のために口が開かなくなり、さらに全身性のけいれんをおこし、死亡する場合もあります。ヒトからヒトへは感染しません。母親が予防接種により十分な免疫を持っていれば、新生児期の破傷風を防ぐことができます。破傷風菌は日本の土壌に広く分布しており、自分では気付かない程度の軽い傷が感染の原因となることが多いので注意が必要です。
4.麻疹(はしか) (国立感染症研究所の麻疹啓発DVDを参照)
麻疹は感染症法の五類感染症(定点把握)です。昭和25年前後の日本では、毎年約1万人が麻疹で死亡していたと推定されています。ワクチンが普及した現在でも地域的な小流行は繰り返されており、年間患者数は平成12年から14年までの各年にそれぞれ20万人、29万人、10万人、麻疹にかかった子どもの死亡は年間数十人と推定されています。平成12~14年に報告された患者の年齢分布は、0歳および1歳が約40%と最も多いのですが、18歳以上の成人麻疹も増加傾向となっています。平成15年は患者発生が全国的に少なく、過去20年で最低となりましたが、この数年は、10~20代にかけての麻疹が急増しています。
麻疹は、麻疹ウイルスの飛沫感染や飛沫核感染などによっておこる重篤な発熱性発疹症です。伝染力が非常に強く、予防接種をしなければほとんどの人がかかる病気です。発熱、咳、鼻汁、発疹を主症状とし、最初の3~4日間は38℃前後の発熱があり、一時おさまりかけたと思うとまた39~40℃の高熱と発疹を認めます。発疹を伴う高熱は3~4日で解熱し、次第に発疹も消失しますが、しばらくは色素沈着が残ります。主な合併症は気管支炎、肺炎、中耳炎、脳炎で、中耳炎は7%、肺炎は6%、脳炎は0.1%に合併すると考えられています。亜急性硬化性全脳炎(SSPE)という慢性に経過する致命的な脳炎は、約10万例に1例発生します。
5.風疹(三日はしか)
風疹は、風疹ウイルスの飛沫感染によっておこる発疹性疾患です。2~3週間の潜伏期の後、軽い風邪症状ではじまり、発疹、発熱、後頸部リンパ節腫脹などをおこします。発疹も熱も概して軽く、約3日間で消失することが多いようです。合併症として、関節痛、血小板減少性紫斑病、脳炎などが報告され、血小板減少性紫斑病は患者3,000人に1人、脳炎は患者6,000人に1人の頻度で発生するといわれています。 妊婦が妊娠早期に罹患すると、新生児が先天性風疹症候群(心奇形、白内障、聴力障害など)に罹患することが大きな問題です。
かつてはほぼ5年ごとの周期で大きな流行が発生していましたが、平成7年4月から男女への予防接種が開始され、それ以降は大きな流行はみられていませんでした。しかし、最近再び流行が目立つようになり国立感染症研究所によりますと、2012年 2,386 2013年 14,344 2014年 321 の流行がおこり、この間45例の先天性風疹症候群が報告される事態となりました。患者の8割は男性で、その多くが20代から40代です。
風疹の予防接種は、現在、1歳と小学校入学前の2回行われているほか、予防効果を高めるため、中学1年生と高校3年生にも行われています。しかし、平成6年までは、予防接種の対象が女子中学生に限られていたため、免疫がない成人男性の間で感染が広がっているとみられています。国立感染症研究所感染症情報センターの多屋馨子室長は「流行の中心になっている20代から40代の男性の周りには妊娠中の女性がいると思うので、風疹を広げないよう、男性も予防接種を受けてほしい」と話しています。
6.日本脳炎
日本脳炎は感染症法の四類感染症(全数把握)です。日本での年間患者報告数は、昭和42年までは1,000人以上でしたが、ワクチンの普及、媒介蚊の減少および生活環境の改善によって激減し、平成12年以降は毎年10人未満にとどまっています。しかし、患者発生数は少ないものの、毎年行われるブタの抗体検査結果では、北海道を除いてウイルスの存在が確認されています。日本脳炎は幼少児に好発する病気ですが、近年、免疫力の低下した高齢者の患者が多くなっています。ただ、平成17年5月に日本脳炎ワクチン接種を一時凍結した影響で、九州・四国・関西地区でも乳幼児老齢者の発症が報告されるようになり、地球温暖化と相まって今後注意が必要と言われています。
日本脳炎ウイルスによる感染症で、ブタの中で増えたウイルスが蚊(コガタアカイエカ)によって媒介されます。ヒトからヒトに直接感染することはありません。7~10日の潜伏期間の後、急性脳炎を発症します。症状は、高熱、頭痛、嘔吐、意識障害、けいれんなどです。日本脳炎ウイルスは不顕性感染が多く、脳炎を発症する頻度は100~1,000人に1人とされています。脳炎の死亡率は約15%で、約50%が神経の後遺症を残します。
7.急性灰白髄炎(ポリオ)
ポリオは感染症法の二類感染症(全数把握)で、かつては「小児マヒ」とも呼ばれていました。昭和36年までの日本ではポリオ患者は毎年1,000人以上、死亡者も100人以上でしたが、ポリオワクチンが広く使用されはじめた昭和36年以降患者数は減少し、昭和55年以降には野生株ポリオウイルスによる患者の発生をみていません。
ポリオはポリオウイルスによる感染症で、感染した人から排泄され、経口感染によりヒトからヒトへ感染します。多くの場合病気の症状を示さない不顕性感染で終わりますが、まれにウイルスが脊髄の神経細胞を侵して手足の麻痺をおこし、その麻痺は後遺症となって残ります。呼吸筋が麻痺すると、死亡する場合もあります。麻痺の発生率は、感染を受けた者の0.1~2%程度とされています。
経口生ワクチンの被接種者またはその接触者にきわめてまれにポリオ様麻痺がおこることがあるため、2012年9月1日から弱毒傾向生ポリオワクチンは廃止され、不活化ポリオワクチンに切り替わりました。
8.インフルエンザ
インフルエンザは感染症法の五類感染症(定点把握)です。日本での年間推定患者数は、平成12年から14年までの各年にそれぞれ959万人、403万人、874万人と報告されています。 「2001/02年以降の5シーズンにおけるインフルエンザの検討」 を参照
A型またはB型インフルエンザウイルスによる急性疾患で、伝染力は強く、ウイルスの感染を受けてから1~3日間ほどの潜伏期間の後に発症します。発熱(通常38度以上の高熱)・頭痛・全身の倦怠感・筋肉痛などが突然現われます。咳・鼻汁などの上気道炎症状がこれに続き、約1週間の経過で軽快しますが、いわゆる「かぜ」に比べて全身症状が強いのが特徴です。肺炎、気管支炎、急性中耳炎、脳症などの合併症をおこして重症化することがあります。また、解熱剤としてアスピリンなどのサリチル酸製剤を投与すると、脳浮腫や脂肪肝を主な症状とするライ症候群をおこします。
ウイルスの型がこれまでに獲得した免疫の全く働かない型へと大きく変化し、その新型ウイルスによる世界的大流行の発生が懸念されています。
9.結核
結核は結核予防法により、診断してから2日以内に、もよりの保健所に届け出るように定められています。日本での小児結核の発生数は年間280~300人で、その75%が7歳未満となっています。0~2歳の結核は、髄膜炎や粟粒結核などの重症結核であるのが特徴です。
小児結核は、体内に初めて侵入した結核菌によっておこる病気で、一次結核と呼ばれています。それに対して成人の結核は、体内に潜在していた結核菌によっておこる病気で、二次結核と呼ばれています。小児重症結核例のほとんどがBCG未接種であることから、BCGは小児結核に有効と考えられています。平成17年4月から結核予防法の改正により、生後6ヶ月までにツベルクリン反応検査を行わない直接BCG接種が行われることになりました。
10.流行性耳下腺炎(おたふくかぜ、ムンプス)
ムンプスは感染症法の五類感染症(定点把握)です。日本では、ムンプスワクチンが任意接種のため接種率は約30%と低く、感受性者の蓄積する数年毎に大きな流行がみられています。
ムンプスウイルスによる急性の全身性疾患で、耳下腺の腫脹と圧痛を主症状として急激に発症します。ウイルスは全身の臓器を冒して、神経組織や内分泌系の臓器に病気がおよびやすいのが特徴です。髄膜炎が最もよくみられる合併症ですが、思春期以降の成人が感染すると、ときに睾丸炎や卵巣炎をおこします。それ以外の合併症では、膵炎、腎炎、難聴などがあります。難聴は、その多くが片側性の回復困難な後遺症で、患者の2~20万人に1人の割合でおこるといわれていましたが、最近、その頻度は千人に1人の割合と高いとの報告もあります。
11.水痘(みずぼうそう)
水痘は感染症法の五類感染症(定点把握)です。日本では毎年多数の患者が発生し、8~10月にかけて患者が著しく減少し、12月頃から増加した患者発生が6月頃まで続くという規則的な季節変動がみられています。ほとんどが小児期にかかっている現状から、出生数からワクチン接種数(約30万人)を引いた数に近い、約90万人の患者が毎年発生していると思われます。
水痘帯状疱疹ウイルスによる、発疹(水疱)と発熱を主症状とする急性疾患です。空気感染、飛沫感染、接触感染により伝播しますが、伝染性は麻疹に次いで強いと考えられています。健康な小児のばあいは一般に軽症ですみますが、免疫抑制状態にあると非常に重症となります。水痘の合併症として最も多いのは皮膚の細菌性二次感染で、A群溶連菌やブドウ球菌によることが多く、膿痂疹、蜂窩織炎、ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群などをおこします。神経合併症としては水痘脳炎(3万3,000人に1人)、急性小脳失調症(4,000人に1人)などがあり、さらにインフルエンザとともにライ症候群への関与も指摘されています。成人では重症化傾向があり、成人水痘の約15%に肺炎を合併します。
1974年に日本で開発された水痘ワクチンは、水痘予防のために世界中で接種されていますが、高齢者の帯状疱疹予防としての可能性も期待され、現在臨床試験が進行中です。